私は基礎デッサンの指導に際しては、客観的な目を持って形態や陰影を正確に描写することを求めます。正確に描くためには線の角度や長さや比例関係や位置の関係などを確かめていかねばなりません。それは絶えず他の部分との相対的な関係を見る目を必要とします。そこで私の指導は「この線の角度を確かめよ」とか「これとこれとの位置の関係を見てください」とか言うことになり、こまごまとした具体的な指導になりがちです。
このような指導は気分の赴くままに形態や色彩を自由に描きたいという人にはうるさいと思われるようです。近現代の画家のデッサンを見ますと、結構そのような主観的なデフォルマションを加えて対象から受ける感動を強調したものが多いので、それにあこがれる人も多いと思います。
しかし私は一度は、客観的な正確さを追及するデッサンをある程度身に着けてから、主観的デッサンに入るべきだと思っています。アカデミックなどと思われがちですが、それを経験しないと画面「全体」の中での形態の連関やバランスや共鳴の関係などを認識できる能力があやふやのままになってしまうと思うからです。ピカソが若いうちに大量の客観的なデッサンをしていたことはよく知られています。その他の多くの画家たちも客観的なデッサンの時期を若いうちに持って、客観的に空間を認識する力を身に着けていて、だからこそ自由奔放に見えるがバランスや空間構成のしっかりした作品を描けるのです。
基礎デッサンの一番大事な点は形を正確に描くことではなく、画面全体の中での形態や明暗や色彩の関係を一目で認識する能力を身に付けることにあります。

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