「芸術関係の仕事してる方ですか?」
道を聞かれて親切に途中まで付き添ってあげた、なんとなく緊張感がある道中。
申し込み用紙に記入している最中にヒマを持て余した店員がカウンター越しに恐る恐る。
おしゃべり好きそうなタクシーの運ちゃんが行き先を聞いたあとの第一声。
かなりの確立でみんな同じジャブを打ってくる。「音楽関係」ではなく、「芸術関係」なのである。もちろん、「無職ですか?」でもない。
二十歳になる前の頃、キャプテン・センシブルに憧れて毎日のように赤いベレー帽を被っていた時もあったが、ここ最近は全く被っていない。絵描きには見えないだろう。
基本的に「ポッケに入らない物は持ちたくない」主義のため、写真家にしては手ぶらすぎると思うし、毛のモジャ度合いが足りない。
美術の先生が、昼間から街中をウロウロしていたら学級崩壊もヒドすぎる。
どれも、ピシャリと当てはまらないと思う。
「いい年して、まだバンドでもやってんのか?それならとりあえず、芸術関係っちゅう大きな枠組みでアーティスト風に持ち上げときゃノド鳴らして機嫌良くするだろう」という作戦なのだろうか。
だとしたら、「いいかげん全うな仕事に就きゃいいのに、バカみたいに騒いでいるバンドマンですか?」とズバリ聞かれたい。「中途半端な人気でチヤホヤされて、親・親族の涙を枯れさせたバンドマンですか?」でもいい。
その時は、頭ポリポリ掻きながら「いやぁ、そうなんです。俺、バンドマンなんです」と答えたい。
近所の魚屋に晩飯時に行くと、決まって「ヨォ!ダンナさん!このチラシ寿司弁当最後だから安くするよ!持っていってよ!」と言われる。
残っているのは、弁当に限ったわけでもないのに、「ダンナさん」という一家の主を思わせながら「弁当」という一人暮らしアイテムを決まって勧められる。
もしも俺が女で「奥さん!この弁当持っていってよ!」と言われたら、亭主も子も無視した自分勝手な嫁か、バツイチ、もしくは未亡人という設定になってくる。
果たして、この魚屋の大将は、俺のことを「芸術関係の〜」、もしくは「バンドマンの〜」という、どちらの冠を俺につけてくれるのだろうか。
ちなみに、この魚屋で旨いだろうけど弁当は一度も買った事が無い。いつもガールフレンドと食べるファミリー的な刺身の盛り合わせか、鍋セットを買っている。

0