トクDとクスモツが真昼間からウチにやって来た。
麦茶でおもてなしをしてデビッド・ボウイの写真集をみんなで見ながら、宇宙人のファションチェックやどうでもいい世間話をしてダラダラしていたのだがトクDが意を決して「んじゃ、そろそろやるか!」と号令をかけた。
曲作り。産みの苦しみを晴れ渡った青空と対称的な薄暗い我が家で、野郎3人がタバコの煙をモクモクさせながらやった。
自称絶対音感保持者のトクDが歌う「魂(ソウル)のこもったオリジナル鼻歌」をクスモツとオレで必死に耳コピしコードを探してギターで追いかける。トクDがノッてくるとそのスピードはグングン勢いを増し「ちょっと待ってくれ!Bメロのアタマからもう一度歌ってくれ!」との楽器隊の頼みに耳も傾けず一人気持ち良さそうにサビを歌いきる。
「トクちゃん申し訳ねぇ、もう一回だけBメロのアタマんとこ聞かせてくれよ」と、こちらの低姿勢にシブシブ答え歌いはじめるそのBメロは、先ほどのキーとバッチリとズレていてクスモツとオレは眉間にシワを寄せ見合わせる。
こんな作業を60回ほど繰り返した頃、なんとなく曲が完成する。
ちなみにこの間に決して言ってはならないフレーズが存在する。「他に曲のアイデアある?違うのやってみようか」である。
今回うかつにもこのフレーズを2度ほど口に出して言ってしまい、そのたびにトクDが「なんだよ!この曲に未来はねえのかよ!もう飽きたのかよ!」と頭から湯気を出しながらプンプンし、寂しげな瞳に涙を滲ませていた。
日も暮れ始め、我が家の麦茶がすっかりカラになる頃には新曲2曲が出来上がり、忘れない為にもMTR(録音する機械)にその曲を録っておいたのだが、トクDが帰宅後に仮ベースを録音していたらボタン操作を間違えて鼻歌ボーカルを消してしまった。
一日の集大成がボタンひとつで消えてしまった恐怖に怯え「こりゃ、悪い夢だ」と思い込むようにし、その後いっさいの録音作業(むろん再生する事も)を止めて、何故か帰る気配のないクスモツと「ザ・ナック」の「マイ・シャローナ」をひたすら二人で弾きまくって遊び夜もふけていった。

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