知り合いのライヴを観に行った帰り道、見知らぬ美女から声をかけられた。
「芸能人の隠れ家的〜」として、時おりテレビで紹介されている「隠れ家」なのか「目立ちたい」のか良く分からん焼肉屋の前のベンツやらハマーやら高級車が横付けされている歩道で、突然声をかけられた。
「何処行くの?」と。
声の方を向くと「エレベーターを降りて左」の頃のエマニュエル・ベアールが黒髪にしたような美女がコチラにほろ酔いで微笑んでいた。顔だちと声をかけられた場所からして外国人モデルっぽい感じだったが、ピーター・バラカンばりの綺麗な発音だった。
まさに「天使とデート」がはじまりそうな夜だった。
が、しかし、その日、俺は飯も食えず寝不足だった。
しかも、「歩キング」と異名をとっていたハズの脚力も昔のハナシで、ライブハウスからトコトコ歩いているうちに膝がズキズキ痛みだしていた。
つまり、ついさっき観終わったばかりのステージの興奮とあいまって、声をかけられた時の俺は気がたっていた。ピリピリと言うか、ビリビリ&(膝が)ズキズキし、ムキムキしていた。
その結果「何処行くの?」と、目の前のガードレールに腰かけている天使の問いかけに対し、反射的に
「何処だっていいじゃん」と
麒麟のかたっぽを思わせる低音ドスを効かせながら唇をとがらせて答え、わざわざ足を止めておもいっきりニラんでしまった。
その天使は、予想だにしていなかった即答+「仁王立ち」と言うこの国に古くから伝わるキメポーズに驚き、目ん玉をまん丸に見開いて引きつり、あっという間にエマニュエル・ベアールからMrビーンのような顔になってしまった。
そのMrビーンの顔をニラんでいるうちに「あれ?俺何やってんだ?」と我に返り、天使に背を向け再びトコトコ歩きだし、家に到着する頃には「ホント、俺は何やってんだ?」と300回くらい思い返していた。

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