夏は暑いから嫌いだ。暑いと汗かくから嫌いだ。汗かくとベタつくから嫌いだ。つまり夏は暑いので汗かいてベタつくから嫌いだ。と、言いたいのだが、わかっていただけたであろうか。
暑い冬とか寒い夏なんてあるか?暑いから夏なんだよ。と、言われるのはわかってるが、オレは暑いの嫌なので、冷房の設定温度を20度にしてキンキンの冷風を直接自分にあてるのが大好きだ。自分以外を冷やすなんて、もったいない。そしてその冷風を最大限に活かしたいので、もっぱら家ではフルチンだ。フルチンでクーラーの風向きを自分に向け常にキンキンの冷風にあたっている。大切な電気を無駄にしない省エネの精神である。自分でも驚くほど地球に優しい文明人である。
が、オレは暑いのは嫌いだが、熱いのは好きである。なみなみとした熱い風呂にザップーんと入り、ふぃーっ、なんつって、うんこまんこちんこまんこちんこうんこぼよーんぼよーんいつかあいつらぶっころす〜、とかって適当に唄ってホカホカになって冷えたビール味の発砲された缶のお酒を片手に身体をふかず濡れた全身をクーラーの冷風で乾かすのが大好きだ。夏は嫌いだが、夏だねぇ、なんて思ってしまう一瞬である。暫くすると、汗が冷え身体も冷え、鳥肌が立ち始め、乳首も勃ってくる。プルプル震えるくらいになると金玉袋もカチカチだ。ふぇっくしょん!なんつってクシャミも出て、いや〜っ、夏だねぇ〜っ、なんつって鼻水垂らしながら、ビールみたいな味の缶に入った発砲されたお酒をぐびっとやる。身体は汗一つかいてないサラサラでお肌は鳥肌でポツポツ状態。このまま冷凍されたまま発見されたアンデスの美少女のように眠りにつくのが最高だ。必ず寒くて目が覚めるが。
そんな、いつものある夏の夜。
携帯に電話。
見ると、タケ・ザ・ドングリ・バンビーノ、と表示。誰?あ、タケちゃんね、ドラムの人ね、あの金髪アフロの馬鹿野郎ね、たまにしかかかってこないのに、わけわかんない、名前で登録したもんだから、一瞬わかんなかったぜ。いつもなら出ない。どーせ、金貸してくれ、か、エロDVD貸してくれ、か、面倒臭い頼みごとだ。が、その時のオレは機嫌がよかった。身体もキンキンに冷えて乳首もビンビン金玉袋もカチカチだ。たまにはタリバンの生き残りみたいなカス野郎の話でも聞いてしんぜよう。なんて度量のデカいどてらい男になっていた。
もしもし、トクちゃん?
おぅ、タケ先生、どないした?
今、何処?
ワシは、今、我が家でくつろいでおるところじゃが。
ふーん、今日、スタジオなんだけど。
へ?屁が出た。マジ?何時から?
いや、9時。21時。もう始まってます。
って、もう、9時半じゃん!
いや、じゃん!じゃなくて、なにしちょん?リーダー、カンカンよ。間に合わないと思うけど顔見せたほうがいいよ…
マジか…最悪だ。
今日だったか、スタジオ。だいたい、土曜日ライブだったのに、月曜日にスタジオって、マジか?なんか金曜日にもスタジオ入ってたぞ。なぜ、言わない。土曜日ライブ終わって帰る時に、じゃ、月曜日9時ね。お疲れちゃん、くらい言わないか?いや、言ったのか?オレ酔っ払ってたもんな…
むぅ…致し方ない。せんないせんない。忘れてたオレが悪い。言い訳したら火に油だ。ヒロキングはそういう奴だ。はぁ。
なんつって、服をいそいそと着、飲んでた発泡酒もうっちゃって家を出た。車で行きたいとこだが、もう、クソ不味い発泡酒三本半飲んでる。わちゃーっ。しゃーねータクるか、って財布みたら、1500円しか入ってねー。うわ。スタジオ代払ったら帰れねーよ。これ。バス停までダッシュじゃ、ってダッシュしたらもう汗だくに。
風呂入ったばっかなのに。
バス乗って電車乗って、って、ただただリーダーに怒られに行くために…なにやってんだろ。俺。もう、バックれようかな。辞めちゃうか。脱退すっかな。とりあえずメールで、もう、貴方達とは音楽性が合いません。やっとられんので脱退します。って送ってクーラーにフルチンであたりたい。そうしたい…
なんて現実逃避してたら、もう駅についた。意外と早くついちゃった。が、一時間半の遅刻。まず、チョコレイツというバンド、一時間以上の遅刻は、遅刻した奴がその日のスタジオ代を全額払うという暗黙のルールがある。ま、当たり前だ。みんな時間を割いて一文の得にもならんクソバンドの練習なんてやっとるのだ。一人かければ、その日のスタジオは無駄になる。
が、俺、もう1000円しかねーよ。一人分もママならんわ。とほほ。だよ。
スタジオまでダッシュして、硬く重い扉を開ける。とりあえず、すんませんでした!と深々低頭。しれーっ、っとした空気。
残り、30分、次のライブで久々やる曲を合わせる。なぜか、ギターのゆいまーるが叱られる。いつもなら、ざまぁ、なんて思うが、この時は、オレが遅れなければ、もっと余裕もってリラックスしたなごやかな練習になってたのに…なんて、つい、いつもと違って自分を責めてしまったりなんかしてしまう。相当、やきがまわってるな。オレの脳みそ。
バタバタ、アタフタと練習も終わり、支払い。すいません。次の練習代は僕払いますんで…と言い、虎の子の1000札を泣く泣く払う。メンバーの冷ややかな視線。やばい。帰れねぇよ。オレ。でも、ここで、一銭も払わなかったら…と思い、ついつい払ってしまった。はぁ。
んで、普段、あまり反省とかしないので、反省した態度というのが、あまり得意でないのか、なにやら、不貞腐れた態度に見えたのだろう、リーダーが、おい、お前、なに?なに不貞腐れてんの?クスモトか?イイカゲンにせぇよ。マジでイワすよ。と、マジ切れされた。昔いたギタリストは遅刻のたんび、逆ギレしてた。ホントムカつくよな、あいつのあーゆーの。みたいなことをよく俺たちは言い合ってた。が、まさか、オレ?いや、違うんです。ホント反省してんす。神妙になってただけっす。って言って難を逃れたが、あの…やっぱ今払った1000円…って言えなくなってしまった。
どうしよ。って、ヒロキングさんと別れ、方向同じなタケマンソンと駅まで行って、結局、あのぅ、すんません。電車賃貸して貰えんですかのぉ。と、勇気を持って告白。1000円借りる。近くで一部始終を見てた、ギタリストの女性が軽蔑を含んだ冷ややかな目でオレを見ていた…。
夏は嫌いだ。早くクーラーにあたって身体もオツムも冷やしたいものだ。
てなわけで、もうすぐ嫌いな夏も終わり、明日はライブ、ダブルヘッダー。どっちにしよっかな。ではなく、夏の最期の思い出つくりにどっちにも勿論来て頂きたい。
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