しばらく、ライヴも無けりゃスタジオも無ぇ寸法だから、いっちょ新曲デモ音源作りでもすっかねぇ…
っちゅう様な事を思いつき、我が家の1GBのSDカード内蔵MTRに向かいポチポチやっていたある日の事だった。
仕事場仲間から「そんなのキングのi-podでMTRのアプリ見つけても出来るんじゃん」との助言。
まん丸お目目をパチクリさせて、超絶スピードで加速するこの世のデジタル進歩に驚きながら、「いやいや、オラっちはいろんな音を重ねてミックスしたいんだよ。ボイスメモみたいなヤツじゃ困っちゃうんだよ」と、その助言にすこぶる疑いを持ちつつ、平然を装いながら確認したトコロ、「MTRのアプリなんだから重ね撮りやミックスは当然。問題は音を取り込むオーディオ・インターフェイスで何を選ぶか迷っちゃうトコなんだけど…」との事。
衝撃のハイテク助言に、「えっ、マジ?リアルガチ?」と、対ホーガン戦のアントニオ猪木よろしく、白目をむいてブクブクと泡吹きつつ答えた翌日には、本屋でデジタル・レコーディング関連の書籍を片っ端から立ち読みして頭のてっぺんから湯気出しながらフンフンと猛勉強。
うっすら感づいてはいたが、コンピューターで曲を作っても『ライディーン/YMO』の様な音にはならず、ボーカルの声も『レディオ・スターの悲劇/バグルス』の様にはならないと力強く確信し、パソコンを使ってのデモ音源作りがスゲェ面白そうな事にピシャリ気がついた。
そうなると、雑誌に掲載されていたデジタル・レコーデイング関連の店に突撃あるのみと、意を決して突撃し、「俺、ほんの昨日まで1GBのMTRでデモ作ってた原始人ッス。マウスでポチポチやってデモ作る現代人になりたいッス。オススメ機材を教えてくれッス」と、店員にぶつけたトコロ
「PCのメモリによって…今はボカロが…レジストレーション時に…」等々、立ち読みで猛勉強した許容範囲を一瞬にして超えるキーワードの嵐に巻き込まれ、入店して4分ほどで撃沈。
「俺は原始人だって正直に申告したのに…、ホント、あの店員も原始人が理解出来る言葉使ってくれよな。いや、俺はひょっとして原始人では無くて猿なのか?」
と、進化に取り残された孤独をシッポリ感じつつ、トボトボと二足歩行を決め込みながらフト頭上を見上げれば、目の前の駅ビルの催事場で「将棋まつり」なるモノが開催中との横断幕に気がついた。
フラフラと誘われるように催事場に滑り込み、扇子を買って帰って来た。
「新手一生」
俺は、デジタル・レコーディング界なる新世界をあきらめて無い。

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