「昔と違って、最近はCDが売れなくなっているから大変でしょ」
などと、こちらがバンドマンである事に気がつくと優しく同情的に、もしくは業界の裏の裏を知り尽くした事情通ヅラで、あるいは古き良き時代の昭和回想録を語りたくて暴発寸前の鼻の穴おっぴろげフェイスのオッサンなどに声をかけられる事がよくある。
職場や飲み屋、エアコン取り付け業者にバイクのタイヤ交換中の待合場などなど。
「そうみたいッスね。しかし、ここだけの話。世間の皆さんは音楽を聴くことに飽きてないっぽいッスよ。いや、コレは俺個人の感覚なんッスけど・・・リアルガチで。
CDだろうが、ネットだろうが、ダウンロードだろうが、音楽に触れる事が好きっちゅう人が、まだまだ多いような気がするんッスよね。ほら、テレビを2時間観たら30分くらいは音楽が流れてませんか?
だから、音楽を作るって当分はチヤホヤされるんじゃないッスかね・・・皆が音楽に飽きる日が来るまで。それって、今世紀中に来ますかね?」
などと、その日会ったばかりの人からの引退へのススメをテキトーに交わしてカウンターパンチを打ちまくってきたが、近所のお気に入りのCD屋が、事業縮小による移転(いや、コレは俺個人の感覚なんッスけど・・・)で閉店となると話は別。
なんだよ、すこぶる寂しい。
閉店大セール中、レジに並び会計をする際に、「すこぶる寂しいです」と、その素直な気持ちをぶつけたいにも関わらず「CDのビニールはいらないです」くらいしか言えずトボトボと帰宅。
次の日も、また次の日も、結局、その閉店大セール中に2〜3回出入りし、レジに並ぶ度に、今日こそ思いを告げようと意気込んではみたものの「寂しいです」の一言が言えずに帰ってきて、今やその店はシャッターをピシャリと閉じてしまっている。
結局最後の日まで、その思いを告げる事は出来なかったが、世間の皆さんと同じく俺も音楽を聴くことに飽きてないっぽいので、まぁ、ヨシとしよう。
買って帰ってきたモノが、CDだろうが、アナログだろうが、ボーナストラック地獄のBOXセット物だろうが、すでに持っているにも関わらず餞別気分で選んだ帯付きだろうが、音楽に触れる事が好きなんで。
更に付け加えるならば、店頭でCD棚やレコード棚の前で窮屈に腰をかがめ、ワクワクしながら気になるヤツを一枚一枚手に取り、買うべきか見送るべきか真剣に鼻息荒く検討する作業も、まだ俺は飽きていないっぽい。
そんな作業中、店内のBGMにシレ〜と耳を傾け、「今流れているおしゃれソウルな選曲は、あっちの奥にいるパーマ店員によるものだな・・・」と、勝手に憶測する事も飽きるどころか、店頭購入ならではの楽しみのひとつ。

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