台風が関東の上の方でタコ踊りしながら北上をキメ込んでいる頃、俺はフンフンと適切な車間距離を保ちつつモーターサイクルを転がしていた。
いや、もうちっと正確に伝えるならば、次々と攻撃の角度を変えてくる強力な横風・追い風・向かい風軍団のメガトンパンチに耐えうるべく、頭をハンドルの高さまで低く構えつつ力の限りのニー・グリップで車体を抑えて「ちぇすとぉ〜」と絶叫しながら、夜景と海風が名物のレインボー・ブリッジを走っていた。
フワリと風に巻かれてタイヤが浮く恐怖心と、遠回りでも晴海ルートにすれば良かった…との後悔を何度も何度も抱きつつ。
「もう、アカン。このまま海にドボンや…」
と、生命の危機に接した際に聞こえる己の声が何故か関西弁である事にもビビリつつも、事態の改善策としてヒラめいたのが、幼少期に『よろしくメカドック』で覚えて学校帰りのチャリンコで、友達だろうが全く知らん人だろうが、お構いなしに実践していた「スリップストリーム」。
前を走る車の後ろにピシャリとつけて前方からの空気抵抗を無くすっちゅうヤツ。
っちゅう訳で、40〜50m先をトロトロ走る日産マーチに狙いを定めてアクセルを開け、時折フワリと浮いてしまう前輪にこれでもかと体重を乗せた間抜けな前傾姿勢で追いついたトコロ、マーチの運転手はバックミラーに映る「必要以上に前傾姿なヤル気満々変態ライダー」の姿に恐怖を感じたのか急にスピードをあげてしまった。
「いや、待ってくれ。アオッてるんちゃうねん!」
と、エセ関西弁の心の叫びも届かず、やっこさんはグングンとスピードアップ。
ならば負けじと恐怖心を振り払いコチラも更なる前傾姿勢でアクセル開けて…そんでもって、追いつきホットしてるとマーチは再びスピードアップ…のくり返し。
で、無事に帰ってきた。
俺も怖かったが、マーチの運転手もさぞかし怖かっただろう。悪い事をした。

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