もちろん、アインシュタインの高名な理論ほどのことはありません。線の長さも角度も物の位置も明暗の濃度も、全て他の部分との相対的な関係で決まるのだと言うだけのことです。例えば机の縁の線のような平らな線を一本描くにしても、困ったことに実際に水平に見える線などめったに無いのです。平らにある線はいくらでもありますが、目にはそれらが皆傾いて見えていてその角度をどう決めるかが結構難しい問題なのです。そこで仮定の水平線を作ってみて、それと比べるなどの操作が必要になるのです。垂直線の方はわりに垂直に見えている線が多いので、それらを基準にして平らな線や斜めの線の角度も決められるはずですが、これもそう簡単にはいかないものです。
子供が人の顔を描くときは目を上のほうに描きますし、体に比べて大きく描きます。体と顔の大きさの関係や顔の中での目の位置などは、それぞれの大きさの比例関係を比べてみていかねばなりません。
全て前に描いた形と比較しながら位置や大きさや角度を決めていくのです。これがいわばデッサンにおける相対性理論なのです。箱(直方体)を一つ描くに当たっても、それぞれの頂の位置の関係や線の角度の関係や面の大きさの比例関係などを相対的に正確に確かめていかねばなりません。ですから最初に決める形が間違っていると全体が狂ってしまいます。慣れないうちは、何度も最初から描きなおす覚悟が必要です。

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