かんたんに言ってしまえば、「描きたいものを描く」のが一番よろしい。眼に見えるものなら何でもデッサンの対象になりえます。時には眼に見えない音や風の動きや匂いをモチーフにデッサンを描く人もいます。空に浮かぶ雲でも木や草でも、大きなものは山や森や建造物から小さなものでは豆や米粒までも、人工物でも工業製品でも自然の生物や岩石でも何でも良いのです。自分の手とか足とか、鏡を見れば顔も描けます。花の好きな人は花を描いてください。そこらの道端の雑草や樹木にお目を向けてください。
今ざっとあげたモチーフの中で一番難しいのは雲でしょうか。それから海の波や動き回るネコ。じっとしないものは描きにくい、当たり前のことですが、そんなものでも見事に描く人がいます。それはデッサンの一つの究極ともいえましょうが、個々にもデッサンが単なる正確な描写ではなくて抽象や表現の作業であることが表れています。
ドガなどはスナップ写真のように瞬間の姿を記憶する特殊な能力の持ち主のように言われますが、それだけでは早く運動するものを正確に描くことは出来ません。走る馬を描くドガやジェリコーの作品は写生であると同時に、馬の骨格や筋肉などの構造にいたるまでの深い観察と知識があって、それに基づいて走ると言う行為を表現したものなのです。
本当はデッサンをするに当たっては、対象の構造についての知識も必要なのです。知識とまで行かなくても、いろいろな角度から見慣れているもの、身近にあって使い慣れているものをモチーフにした方がよいと言うことになるわけです。花なども描いてみてはじめてわかることかもしれませが、絶えず変化する生き物なのです。植物を描くのであれば茎や葉や芽や花などそれぞれの役割や個性を理解しそれを描き分けるくらいの深い観察の努力が欲しいものです。


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