現今は写真と言う便利なものがあって、動物の運動なども一瞬のストップモーションでとらえることが出来ますから、これをもとにして絵画やイラストを描く人が多くなっています。ビデオを使えば好きな瞬間を選ぶことも出来ます。人の表情なども実物より変化のある表情を選べますし、ずっと容易に描けますから、デッサンの勉強の一つの方法としての意味はあります。
ただし本来3次元立体のものを一旦2次元平面に写し取ったものを、また同じ2次元平面に描き写すのですから、その方が容易なのは当たり前です。ここには立体を平面に抽象化するという操作過程がありませんから、精神活動としては一段低い作業になります。それだけにデッサンの勉強としての効果は低くなりますし、出来た作品のリアリティーも浅くなります。
その上写真は実物をそっくりに写しているかと言うと、実はそういえないのです。まず一枚の写真は、その背後にある歴史や性格や周辺の環境等から切り離されています。これを描写してみても当然実物を描写して得る情報に比べると、得るものはずっと少ないことになります。例えば旅行で撮ってきた写真を得々と見せてみても、見せられた方にとってはその実際の場所の記憶が無いのだから、さっぱり面白くないと言うようなことです。撮ってきた人にはその場のその写真には写っていない気温や風やそのときの気分や周囲の情景その他もろもろの記憶があるでしょうが、見せられる方にはその写真に写っていることしか情報が与えられないので感動が沸かないのです。

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