だいぶ前の方でデッサンによって育成保全される能力に二つあると書きました。一つには観察力であり、もう一つは空間認識力でした。
私は主に抽象表現的な絵を描いていますが、そればかり続けていると神経的に疲労するばかりではなく、精神的な飢餓感のようなものに悩まされるようになってきます。何か内面的な空虚の感じが広がってきて、無気力に陥るのです。当然作品の制作も行き詰ります。そのようなときに私はしばしばスケッチに出かけます。あるいは縁側で日向ぼっこをしながら花や果物を写生します。
抽象だ幻想だと、あるいは意識下から取り出した超現実の世界だなどと言っても、広大な内面世界から無尽蔵にイメージが湧いて来るような天才もたまにはいるのかもしれませんが、私は人間の内面世界なんてものは限られた容量しか持っていないバケツあるいは貯蔵庫のようなものではないかと思っています。絶えず外から材料を仕入れていないとうすぐに空っぽになってしまう。この場合の外は自然、環境、人類の歴史。絶えずセンサーを働かしてそれらから吸収していなければ内なる脳みそもハートもやせ衰えてしまう。

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