一方の空間認識力についても何箇所かで触れてきたと思います。一定の広がりにある空間全体を一目で認識する能力。その空間の中の全ての線や面の関連を読み取り、緊密な、人間にとって有意義な空間として造形する能力。それらの能力がデッサンにおいて最も確実に育成保全されると言うこと。
現代の美術が個性化と先鋭化を深める一方で、造形的な弱さに無頓着になり、表現が独りよがりに陥るものが多くなって来ているのではないかと思われることの裏にも、デッサンの軽視があるのではないかと感じるのですがいかがでしょうか。特にこの国において、足もとの地に付いていないような、からすべりのような印象が現代美術の世界に広まっているように思えます。表面的な経済上の豊かさと便利さのゆえに、その危険は他の国よりも多いのかもしれません。ちょっと面白いとかちょっときれい程度の作品ばかりで、造形や表現の鋭さや迫力においては開発途上と見られている国にも敵わないようなのです。たぶん、絶えずデッサンを心がけることに、この種のつまらなさや停滞感からの出口があるのではないかとも思います。
先に書いた企業の研修の話とも関連しますが、空間認識力の育成はまた、三次元的思考力の育成にもつながり、平面的直線的にしか物事を考えられなかった人に、異なった視点や角度からの思考を可能にするはずのものです。

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