セザンヌの言葉や作品に基づいて空間の再構成の考え方を推し進めたのがキュービズム(立体派)の画家たちで、彼らは形体の単純化や強調だけでなく、形体の「解釈」を積極的に行おうとしています。つまり視点の移動や記憶による形体の綜合的な認識、あるいは子供の目や原始人ののような自由で主観的なものの見方の導入などで、普通一般のパースペクティブで整えられた空間とは全く異なった空間表現を行ったのです。それを行うことでより自由な空間構成を可能にしたのです。
ピカソやブラックに始まりグリやレジエなどをはじめマチスやシャガールやモディリアニなどにも影響を与えて、20世紀初頭の一時期を風靡したこのキュービズムの運動とその作品は、今でもデフォルマションの基本的な教科書の役割を果たしており、空間の新鮮で確実な構成を心がける者にとっては避けて通れない道でしょう。
いずれにしても、モチーフを自分の完成と知性の領域に引き込んで料理するためには、まず相手をよく知ること、そのためにデッサンを繰り返すことが必要です。その上で思い切った抽象化なりデフォルメを行えば、自由でしかもリアリティーのある新鮮な空間が生まれるのです。対象に対する理解も愛情も無いままに勝手にデフォルメしてみても、それはいわゆるポンチ絵にしかならないのです。
ここで念のために、よく知るためにするデッサンにおいては、必ずしもうまくきれいにそっくり描かれなくても良いと言うことをあらためて付け加えておきましょう。更に付け加えればここでいう「知る」は、言語的な解釈や記憶とはかかわりのないものだと言うこともあります。デッサンそのものは下手でも良いし、その行為を言葉で説明できなくてもよいと言うことです。

0