私は抽象表現的な作品を描いております。ですから私にとってデッサンは描写力を学ぶためのものではありません。それでなお毎週人体デッサンを描き機会を見つけて風景スケッチなどをしたりしているのは、以下の意味があると思うからです。
1、観察力の育成あるいは保持。対象を凝視することで,自然からより深く鋭い形態の造形の秘密を学ぶことが出来るに違いないと思う。
2、空間認識力の保持と育成。新たにして鮮烈な空間の創造を求める者にとってはキャンバスと言う空間を隅々まで一目で認識する能力が必要であり、デッサンにおいて正確に対象の形や陰影明暗を表現しようとする努力は、視覚を常に一定の広がりの中で相対的に働かせる力を養うことになるから、空間を認識する能力も高められる。
3、以上の効果も含めてデッサンは視覚の洗練と鋭敏化のための日常的なトレーニングと判断している。これは野球選手がキャッチボールやランニングを、日常のトレーニングとして欠かさないのと同列のものである。

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