※ネタバレ注意
今日は第88回アカデミー賞主演男優賞、監督賞、撮影賞を受賞した話題作「レヴェナント 蘇えりし者」を観て来ました。
今年のアカデミー賞は色々と波乱含みだったのですが(ノミネートされた俳優が全て白人だったことでウィル・スミス夫妻やスパイク・リー監督らが出席をボイコットし、人種問題など物議を醸しだした。)、1993年「ギルバート・グレイプ」以来5度目のノミネートで念願のオスカーを手にしたレオナルド・ディカプリオの主演男優賞で話題となったりました。その他にも監督賞のアレハンドロ・G・イニャリトゥの2年連続、撮影賞のエマニュエル・ルベツキの3年連続受賞(史上初!)という快挙となった本作。
1823年の西部開拓時代のアメリカを舞台に、実話を基に描かれた作品。
実際にヒュー・グラスという人物は(レオ様が演じている)は熊に襲われて瀕死の重症を負いながらも仲間に見捨てられ、自力で320kmもの距離を歩きながら生還したという奇跡の人物らしく、それを復讐劇と組み合わせて描いているのが特徴。
開拓時代といえばケビン・コスナーの「ダンス・ウィズ・ウルブス」、そして先住民族の復讐劇はダニエル・デイ=ルイスの「ラスト・オブ・モヒカン」を思い浮かべますが、そこにイニャリトゥ監督の特徴でもある神の啓示、生命の存在を加えてより深く描いています。
「21g」や「バベル」にも通じるイニャリトゥ監督の命の意味、そしてルベツキによる職人芸ともいえるカメラワーク。
凄すぎました。
本作はやたらとグロいシーンがたくさん出てきます。
なので「レオ様」観たさのバカな連中が単なるデートムービーとして観ると痛い目にあいます。
この作品には人間や動物がやたら殺されるシーンが出てきます。
ここで描かれているのは何故人間は人(動物)を殺すのか?ということ。
先住民族の地を奪い侵略して利益の為だけに殺しをする開拓人。
そして自然も生き物も全て神から授かったものとしている先住民族。
先住民族同様にグラスの行う殺し(動物)は全てに意味があり(生活の為)、それは全て神から授かった生命をいただいているのにすぎません。(劇中、グラスは死んだ馬の内臓を取り除き寒さを凌ぐ。立ち去る時に馬に手をあてて祈る仕草をする)
しかし、グラスは唯一自分の憎しみの為だけに人を殺すことを決意するのです。
ラストで復讐をやり遂げた時、グラスの目の前に亡くなったグラスの奥さんが現れるのですが(白人に殺された)、振り向きグラスに背を向け、グラスの前から立ち去ってしまいます。
自分の目的を果たしたグラスが神から見放される瞬間です。
グラスも野蛮な人間と同じになってしまうのです。
グラスの表情が絶望に変わり、そして観客はグラスと目が合います。
見つめ続けるグラスも観客に訴えます。(自然界のルールを破り、人間の過ちを犯してしまったということを)
その後エンドロールになるのですが、エンドロール中もグラスの呼吸音だけが聴こえ、その呼吸音もやがて消えてなくなります。
グラスが目的を果たし、死んでしまったのでしょう。
セリフにも出てきますが、“全ては「神に委ねる」”のです。(自分の死も)
ちなみにタイトルにもあるレヴェナントとは「亡霊」や「帰ってきた者」という意味とのこと。
アンドレイ・タルコフスキー監督へのオマージュともおもえる美しい自然のシーンや奥さんが空中に浮かぶシーン(「バードマン」でもありました)、奥さんの胸から鳥が飛ぶシーンなどたくさんあり、なるほどな〜と思いました。
実際に熊に襲われた話ばかりが注目され、ドラマ化もされたみたいですが、イニャリトゥ監督らしい脚色が勝利の一本となりました。
※ただし、観る人を選ぶ作品。