[6]ノーマン・スタンフィールド(1994年「レオン」)
リュック・ベッソン監督による作品。
この作品に登場する悪役はゲイリー・オールドマン演じる悪徳麻薬捜査官にして自ら“エクスタシー”を常用するジャンキーのノーマン・スタンフィールド。
平静を装っているかと思えば突然キレるというエキセントリックな役を見事に表現。
犬のように人の臭いを嗅いで嘘をついているかどうかを嗅ぎ分けたり、錠剤を奥歯で噛み、天井を見上げる仕草を取り入れることで彼の異常性をより際立たせている。
この作品での印象が強すぎた為、エキセントリックな役のオファーが多すぎてしまい、ゲイリー・オールドマン自身も嫌気がさしていたというエピソードがあります。(本人もこの役は気に入ってないらしい。)
[7]カイザー・ソゼ(1995年「ユージュアル・サスペクツ」)
ブライアン・シンガー監督によるミステリー作品。
この作品はこれまでの殺人鬼を描いた作品とは違い、登場人物が事件の回想をしながら“カイザー・ソゼの正体は?”という謎を観客と追っていく内容。
演じたのはケビン・スペイシー。
アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」を下敷きにしたクリストファ・マッカリーの脚本が高く評価。
カイザー・ソゼの正体が明らかになるラストは爽快感にも似た感覚をおぼえるが、実はこのカイザー・ソゼは最後の最後で2つのミスを起こしたまま終わるのである。
1つはカイザー・ソゼの顔を知る火傷をして助かった男を生かしたままにしてしまった事。
もう1つは最後にクイヤン警部に正体がバレてしまった事。
カイザー・ソゼの目的は自らの存在を謎にしたまま伝説の存在になる事であり、相手に精神的な恐怖を植え付けるのが目的なのである。
観客を見事に騙したケビン・スペイシーによる圧巻の演技はアカデミー賞助演男優賞をもたらした。
他にもこの作品によるベニチオ・デル・トロの訛りをブラッド・ピットが「スナッチ」で参考にするなど様々な作品に影響を与えたのです。
[8]ジョン・ドゥ(1995年「セブン」)
デヴィッド・フィンチャー監督による猟奇的殺人を描いたサイコ・スリラー作品。
キリスト教の「七つの大罪」を元にした連続殺人事件とそれを追う二人の刑事の姿を描いた本作。
この殺人鬼を演じたのはケビン・スペイシー。
ケビン・スペイシーは「映画が公開されるまで自分が出演する事は絶対に内緒にしてくれ」と言っていたが(観客へのサプライズの為。なので冒頭にはケビン・スペイシーの名前は登場しない。)、宣伝の際に映画クリエイターがうっかりケビン・スペイシーの名前を書いてしまい、激怒したというエピソードが有名。
ジョン・ドゥの目的は被害者たちにより「七つの大罪」を世間に知らしめることであり、被害者たちに罰を与えるのが目的ではない。
そしてこの作品の最大の謎になっているのが“憤怒”の罪人であるミルズを生かしたこと。
何故生かしたのかというと、これは旧約聖書に描かれているアダムとイヴとイサクの物語を真似た為。
これはアダムとイヴの息子であるイサクが父により神の生け贄になってしまう話で、これにより“憤怒”の罪人であるミルズの矛先がミルズの妻と身ごもっていた子供へ向けられた為にミルズが生かされたのである。
一度観たら忘れられないエンディングは今でも語り草となっている作品。
クリストファー・ノーラン版のジョーカーの元ネタになったとされるジョン・ドゥは“自己愛性人格障害”とされていて、“ありのままの自分を愛することが出来ず、自分は優れていて素晴らしい特別な存在でなければならない”と思い込む障害だそう。
[9]アントン・シガー(2007年「ノーカントリー」)
ジョエル&イーサン・コーエン監督による作品。
この作品に登場する殺し屋はハビエル・バルデムが演じたアントン・シガーという人物。
オカッパ頭に無表情、屠殺用の空気銃を持つ不気味な人物だが、かなり几帳面な性格。
劇中で次々に人を殺していくのだが、無差別に殺しているのではなく、彼は彼のルールの中でのみだけで生きているのである。
金や名声、依頼主、組織、成功などは関係なく、彼の中にあるのはその人間たちに与えられた運命のみなのである。
劇中で唯一助かったのがトレーラーハウスを管理していた女性。
これは彼女がルールを守ったからである。
彼女を支配しているルール(この場合、会社による規則)を忠実に守ったことで、シガーは自身がルールにしたがって生きているようにこの女性にも同じ感覚を感じたのである。
コイントスで人の運命を決めるのもセリフにあるように神から決められたルールなのである。
ちなみに忘れられないこの髪型のアイデアはコーエン兄弟によるもので、ハビエル・バルデム本人は気に入ってない。(当たり前か…)
この作品を観てハビエル・バルデムのファンになり、その後彼の出演作を片っ端から鑑賞したほど強烈なインパクトのキャラクターでした。
[10]ジョーカー(1943年〜「バットマン」)
1940年に原作で登場したバットマンのライバルであるジョーカー。
様々な俳優が演じており、これまでシーザー・ロメロ、ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトがジョーカーを演じた。
その中でも強烈だったのがヒース・レジャーによるジョーカーが圧倒的な存在感でした。
ジョーカーの目的は金や名声ではなく、人間の心の奥にある本能をさらけ出すことである。
ジョーカーはバットマンを自分と似た人間だと指摘。バットマンは悪を殺さないですがそれを「独りよがりで自己満足だ」と告げるのです。
ジョーカーの「俺はお前(バットマン)を殺さない。楽しいから。俺とお前は永久に戦う運命だ」というセリフにもあるように正義と悪は常に対極で、お互いがいなければ成り立たないのです。
人は正義と悪が絶妙なバランスで均衡を保っていて、そのバランスが崩れると一気に悪へ落ちていくのです。
バットマンの中にも悪があることを見抜いたジョーカーの名セリフ。
そして正義と悪のバランスが崩れ簡単に悪へ落ちていった姿をトゥー・フェイスで表現しています。
ヒース・レジャーによる狂気を感じさせる演技が見所の本作。
この役に選ばれた瞬間、彼は一ヶ月間ロンドンのホテルに一人で閉じこもり、独特な笑い方や声などを研究。メソッド演技といわれる完全にその人格になりきるという方法で役作りをしたのです。(ジョーカーは几帳面ではないと考え、手も洗わず徹底的に役作りに没頭した)
クリストファー・ノーラン監督も「彼に脚本の一部や“時計じかけのオレンジ”を見せて彼がどう感じるか考えつけた。その後彼がジョーカーとして声を変えた瞬間、恐怖を感じた」と語っていたほど。
そんな演技で有名なのがヒース・レジャーによるアドリブ。
病院の爆破シーンで、ナースのコスプレをしたジョーカーが起爆装置を押すがすぐには爆破せず、突然ヒース・レジャーがあのような演技をして爆破に合わせました。
他にもゴードンが昇進した時に獄中で拍手をするシーン。
これも台本には無く、アドリブによる演技。
監督はあえて気にもせずそのままカメラを回し続けたのです。
惜しくも2008年1月22日「ダークナイト」の完成を待たずして自宅アパートで遺体で発見されました。
彼が映画史に残した悪役像はこれからの悪役の概念を変えるものとなったのです。
[番外編]
今回のリクエストで大変だったのがどの悪役を選ぶかということ。
他にも「シャイニング」のジャック・ニコルソンや「ミザリー」のキャシー・ベイツ、「ターミネーター」のシュワちゃん等挙げたらキリがなかったのですが(挙げたら100人くらいになってしまう…)、番外編ということで個人的にも師匠の作品での悪役を…(^^;
[11]上官逸雲&鉄心(1978年「スネーキーモンキー 蛇拳」「ドランクモンキー 酔拳」)
一番最初に観たジャッキー・チェン師匠の作品で殺し屋を演じたのが韓国人のウォン・チェンリー。
ジャッキー作品での名悪役を好演した彼は鮮やかな蹴り技が得意で、「スネーキーモンキー 蛇拳」の撮影中にジャッキーの前歯を折るほど強力。(本作でジャッキーの前歯が無いのはそのため)
高校の体育の先生がウォン・チェンリーに激似で、友達に「○○先生ってウォン・チェンリーに似てる!」と言っても誰にもわかってもらえなかったというエピソードがあります…(^^;
[12]キム(1980年「ヤング・マスター 師弟出馬」& 1982年「ドラゴンロード」)
ジャッキー師匠監督による2作品とも名前がキムという悪役を演じたウォン・インシク。
ブルース・リーの「ドラゴンへの道」にも登場したウォン・インシクは韓国合気道(ハプキドー)の達人。
引退していましたが、ジャッキー師匠が自ら電話をして交渉。
ウォン・インシクとのバトルはこれまでのカンフー映画とは違い、リアルファイトの要素を取り入れたことが凄い。
ジャッキー師匠がこれまでのカンフー映画に疑問を持ち、時間をかけて作り上げたバトルシーンはそれまであったカンフーの型を無視し、関節技やボクシングスタイルなどを取り入れ、リアルさを追求。(パンチやキックもリアルに当てている!)
「ドラゴンロード」でのバトルもこの要素が引き継がれ、さらに今では代名詞となった危険なスタントを合わせて“ジャッキー・チェン・スタイル”を築き上げました。
これが現在のハリウッドにおけるアクションのスタンダードになるのである。
“ブルース・リーは彼を(ウォン・インシク)無言で殺し、ジャッキー・チェンは彼を生かしてから殺した”という言葉があるほど。
ブルース・リーはウォン・インシクの良い所を全く紹介することなく倒してしまったが、ジャッキー師匠は攻撃を全て受けてみせ、彼の良い所を全て引き出してから逆転してやっつけたのであります。(この演出はジャッキー師匠がいかに優れた監督かを証明するエピソード)