※ネタバレ注意
今日は「フロリダ・プロジェクト/真夏の魔法」を鑑賞。
この作品はディズニー・ワールド近くのモーテルに住む親子が突き付けられる現実を描いた物語。
監督&製作&脚本&編集はショーン・ベイカー。
主演はブルックリン・キンバリー・プリンス、ウィレム・デフォー。
第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたウィレム・デフォーが話題となった本作。
誰もが憧れる“夢の国”のそばで繰り広げられるアメリカの抱える“問題”を子供視点で描いているのが本作の特徴。
「プレシャス」や「ダラス・バイヤーズクラブ」などのアメリカの“闇”の部分を描いた映画はたくさんありますが、本作ではシングル・マザーによる貧困問題を取り上げています。
ショーン・ベイカー監督は前作「タンジェリン」でもジェンダー・マイノリティの問題を取り上げていて、今回もアメリカの裏側を映画化。
今、注目の新鋭監督の一人です。(「タンジェリン」は全編iPhoneで撮影されたことでも話題に!)
よくよく調べてみると、このシングル・マザーの問題はアメリカでもかなり深刻らしく、主人公のヘイリーたちみたいに“隠れたホームレス状態”に陥っている人々がアメリカ全体で大きな問題になってるんだとか。
で、本作で一番気になっていたのが母親ヘイリー。
子供を教育する訳でもなく、完全に放任。
おまけに仕事を探す様子もありません。
かといって、育児放棄をしてる訳でもなく子供には“友達”みたいな感じで接しています。
このヘイリーの姿こそがアメリカの抱える問題の象徴。(ヘイリーの友人のアシュリーはちゃんと仕事を持っていてモーテル住まいながらも自立している)
さきほどシングル・マザーの話になりましたが、離婚率の高さや未婚者による子供事情、特に血の繋がっていない兄弟たちの描写がヘイリーの娘ムーニーの友達のジェシーの家族たちで表現。(ジェシーは白人でその妹は黒人)
舞台は「マジック・キャッスル」というカラフルな安モーテル。
ここに住む住人たちはみな何かしら問題を抱えています。(貧困層)
「マジック・キャッスル」に対してのシンデレラ城のラストショットが何とも言えず皮肉。
子供たちは突き付けられた“現実”から“本当の夢の国”へ逃げ出すラストに胸がしめつけられます。
ちなみにムーニーの親友ジャンシーが住んでるのが「マジック・キャッスル」の隣にある「フューチャー・ワールド」という安モーテル。
ラストでムーニーがジャンシーのところに行くのは突き付けられた“現実”(児童施設に預けられる)から脱出して“未来”(つまり「フューチャー・ワールド」に向かう)に飛び出そうとしているメタファー。
中盤でディズニー・ワールド内のホテルを予約したつもりの観光客が「マジック・キャッスル」を見て嫌がる描写がありますが、「マジック・キャッスル」には貧困層が住んでおり、この場所を嫌がるということは実際に目の前の現実(華やかなディズニー・ワールドに目を奪われ、その外には貧しい人たちが生きている)から目を背けている我々へのメッセージ。
劇中に張られた伏線をどう読み解くかでラストショットの印象が変わる作品でした。
(なのでこれを理解できない人はラストに不満が残るはず)
本作を観ていて、1996年に開催されたアトランタ・オリンピック時に問題になった貧困層への住居立ち退き問題を思い出してしまいました。