※ネタバレ注意
今日は「女王陛下のお気に入り」を鑑賞。
この作品は18世紀初頭のイギリス王室で、実際にあったアン女王の寵愛を巡る女官たちの駆け引きを描いた作品。
監督&製作はヨルゴス・ランティモス。
出演はオリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ他。
宮廷作品はかなりドロドロしたものが多い中、この作品はアン女王と女官たちによる三角関係にブラックなユーモアを取り入れたのが特徴。
本作での背景は1704年のブレンハイムの戦いの最中のイギリス王室。
そしてアン女王の女官であるサラ・ジェニングスとアビゲイル・メイシャムも実在した人物。
映画用に脚色されたものかと思いきや、鑑賞後調べてみると本作は史実をかなり忠実に描かれているみたいでした。
劇中、アン女王が過去に17人の子供を死産などで失い、その子供たちの代わりに17匹のウサギを飼っている描写がありますが、これもどうやら史実に沿って描かれているとのこと。
で、やはり注目だったのがオリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーンによる演技合戦。
実力派女優たちによる演技が凄まじく、この3人だけでストーリーをぐいぐいと引っ張っていってます。
面白いのがその描き方。
基本的にサラとアビゲイルのシーンが常に交互に登場。(その間にアン女王のシーンが挿入される。)
おそらくヨルゴス・ランティモス監督はサラとアビゲイルの対比を見せたかったのでは!?(成功と失脚の対比。)
魚眼レンズを使ったシーンや自然光を多く使った宮廷のシーン、人物に対して余分な空間をわざと取り入れたカットなどどれも印象深く、ランティモス監督の斬新なアイデアもおもしろかった。
先にも言ったウサギには亡くなった子供たちの名前を付けていて、ラストでアビゲイルはそのウサギを踏みつける描写があります。
これは女王の子供=跡継ぎを表していて、それを踏みつける行為=女王以上の権力を持つというメタファー。
これは冒頭で度々見られるサラが女王を見下ろすシーンにも同様の意味があります。
サラも同じようにアン女王に対し高圧的で、女王を常にコントロール。
で、アン女王が冒頭で持病の痛風が悪化し、劇中のほとんどのシーンが車椅子姿だったこと。
"足を揉む"行為も何度も登場するように、サラとアビゲイルは"女王の足"というメタファー。
サラやアビゲイルの嫉妬や憎悪によりアン女王は歩けず常に車椅子だった訳です。
で、その"足"同士の対決の場が鳩を打つ射撃場でのシーン。(最初はサラがアビゲイルを支配していましたが、最後の射撃場のシーンではアビゲイルの撃った鳩の血がサラの顔にかかる。つまりアビゲイルによりサラは失脚してしまう。)
難解なラストシーンはアン女王とアビゲイル、17匹のウサギがオーバーラップする映像で終わります。
ウサギを踏みつけたアビゲイルの姿を見たアン女王はアビゲイルを呼びつけ足を揉むように強く命令。
そこで女王はアビゲイルの頭を押さえつけて足を揉ますのです。
冒頭からほとんどサラやアビゲイルに支配されていたアン女王が初めてアビゲイルを見下ろす訳です。
アン女王の権力を見せつけたこのシーン。
アン女王もアビゲイルも無表情のままウサギと重なります。
それを最も象徴してたのが劇中で描かれたサラとアビゲイルのウサギの扱いのシーン。
サラはウサギを抱こうともしませんが、アビゲイルはウサギを抱くのです。
ウサギ=権力。
サラは権力を手に入れようとはせず、アビゲイルは権力を狙うという意味にも取れます。
つまりラストの二人が無表情なのはウサギというメタファーを通して、本当の友を失ったアン女王の絶望感とサラのように女王の心までは手に入れられなかったアビゲイルの絶望感を表した描写のように感じました。
エンドロールで流れるのはエルトン・ジョンの"Skyline Pigeon"。
宮廷作品には決して似合わない意外な曲のチョイス。
自由への希望を歌ったこの歌も本作をより深くさせるものでした。
アカデミー賞受賞式まであとわずかですが、本作もかなり有力なのでは!?(ノミネートはされています。)