※ネタバレ注意
今日は「ジョーカー」を鑑賞。
この作品は、映画史に残る悪のカリスマ"ジョーカー"の誕生秘話を描いたドラマ。
監督&製作&脚本はトッド・フィリップス。
出演はホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン他。
第76回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した話題作がいよいよ公開!
ちなみにジョーカーが登場する作品は本作で5本目。
ジョーカーの誕生は"化学薬品のタンク"に落ちてピエロのような顔に変貌するという設定でしたが、本作では大胆に映画オリジナルの解釈でよりリアルなジョーカー誕生を描いています。
で、本作を観る上で重要となるのが「キング・オブ・コメディ」と「タクシー・ドライバー」。(二作品共、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演)
どちらも主人公が持つ幻想とその狂気を描いた名作ですが、特に本作でアーサー(ジョーカー)が人気コメディアン、マーレイ・フランクリンに憧れ、コメディアンになる夢を抱いている設定は「キング・オブ・コメディ」と重なります。
一方、「タクシー・ドライバー」の影響が見て取れるのが、社会に馴染めず、そのフラストレーション(社会に馴染めないことがトラヴィスのフラストレーションではないが)を暴力という手段で解決しようとし、その暴力が大衆に支持され英雄視されてしまうという構図がまさに本作に通じるもの。
まずこの2本を観てから本作を観るとより一層楽しめます。
傑作だった「ダークナイト」。
これ以上のものはもう観れないだろうと思ってましたが、その「ダークナイト」を軽く凌駕してしまう作品でした。
とにかくヤバい。(伏線も楽曲のセンス、カメラアングル、照明等どれも素晴らしかった!)
「ダークナイト」公開時は"犯罪を誘発してしまう"ということで警察も警戒していましたが(実際に作品を観た観客による銃の乱射事件が起きた)、本作はそんなレベルじゃないほど危険に満ちています。
実際にアメリカでは「ダークナイト」の事件のこともあり、ロサンゼルスで行われたプレミア上映の際にはロス市警の他に軍隊まで出て警戒にあたったとか!!
なぜ、ここまでの作品になったのか?
それはアーサーの人生が壮絶すぎることが背景に挙げられます。
舞台となるゴッサム・シティの貧困層による社会への鬱憤や富裕層との格差など現代社会と重なる部分が非常に多く、特に今報道されている香港の暴動などは(撮影時期を考えると偶然なのだが、マスク禁止令と本作での民衆がピエロのマスクを被っているという描写が全く同じ)恐ろしいくらいリンクしてしまってます。(アーサー自身もトゥレット障害を持ち、ゴッサムの福祉サービスにより薬をもらっていたが、突然トーマスの政策により福祉がストップ。薬がもらえなくなり症状が悪化。おまけに地下鉄で暴漢たちに襲われたアーサーは襲ってきた男たちを殺してしまうが、ウェイン・カンパニーの社員だった為トーマスが殺された社員たちを養護する発言をする~更に……とまさに負のスパイラル!)
そして本作のキーポイントとなるのが、劇中に登場するチャップリンの「モダン・タイムス」のシーン。
資本主義を批判した名作ですが、ゴッサムの貧困層は社会に対しての不満が爆発寸前なのに富裕層はこのチャップリンの「モダン・タイムス」を観て爆笑しているという描写はまさに現代社会への風刺とも取れます。
貧困層と富裕層との間には溝があり、「ゴッサムを変えたい。貧しい人を救いたい」と立ち上がったトーマス・ウェインでさえこの映画を観ていた観客の一人だった訳です。(つまり市長選に出るのもパフォーマンスであるということ。)
そしてアーサーがジョーカーとなり放ったセリフ「俺の人生は悲劇だと思っていた。しかし今、気付いた。これは喜劇だ。」。
これはまさにチャップリンが語った名言「人生は近くで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ。」が元ネタ。(おまけに劇中でも名曲"Smile"が流れる)
ちなみに舞台が1981年の設定で、トーマスとマーサ(トーマスの妻)、ブルースが劇場から出た際、彼らが観ていた映画が1981年の作品「ミッドナイトクロス」というのも見事なリンクネタ。(この作品も大統領選が背景にあり、ゴッサムの次期市長選に立候補したトーマスも最後殺される。)
※ブルースがバットマンとなる伏線もちゃんと描いていたのも注目。
そんな新しいジョーカー像を作り上げたのがホアキン・フェニックス。
まず、製作が決まり、ジョーカー役を彼が演じることになって異論を唱えた映画ファンはいないのでは!?
彼の出演作はどれも素晴らしく、演技もずば抜けるほど上手い!
特に「容疑者、ホアキン・フェニックス」(突然の俳優引退&ラッパー転向など業界が騒然となった)や「ザ・マスター」、「ビューティフル・デイ」などの"怪演"ぷりを観れば、ジョーカー役と聞いて納得。(ちなみにホアキンのお兄さんは故リバー・フェニックス)
本作の為に24kgの減量をして撮影に挑んだホアキン。
まさにこの作品はホアキン抜きでは考えられないものでした。
監督も「ハングオーバー!」でコメディのイメージが強かったトッド・フィリップスってのも意外。
しかし本当に意外だったのは、このリ・イマジネーションのジョーカー物語をワーナーやDCがあっさりと許可したことという…(^^;