※ネタバレ注意
今日は「アド・アストラ」を鑑賞。
この作品は、地球生命体探索の旅で行方不明となった父親を探すため、宇宙飛行士の息子が32億km離れた太陽系の彼方へ向かうSFスリラー作品。
監督はジェームズ・グレイ。
主演&製作はブラッド・ピット。
出演はトミー・リー・ジョーンズ、リヴ・タイラー、ルース・ネッガ、ドナルド・サザーランド他。
先日、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が公開されたと思ってたら次はまたまたブラピの最新作が公開。
おまけに久しぶりの来日も果たしたことも話題となりました。
ブラピにとって初のSF作品ということですが、SF作品らしいエンタメ要素は一切なく淡々と進むストーリーは「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせます。
本作を観る上で重要となるのが「2001年宇宙の旅」と「地獄の黙示録」の2作品。
主人公のロイが地球外生命体を探す任務に取り憑かれた父親を探すプロットはこの2作品とほぼ同じ。
「2001年宇宙の旅」のベースとなったのが最古の物語とされるホメロスの「オデッセイア」。
オデッセイウスが海の神ポセイドンを冒涜し、神の怒りを買い、数々の苦難を乗り越えながら自分の国に帰るという英雄彈。
もう一つの「地獄の黙示録」はジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」の舞台をベトナムに変え製作。
主人公マーロウがジャングルの奥地で現地の人々から崇拝され、その権利に取り憑かれたクルツを探しに行くという内容。(どちらかといえば本作のベースは「地獄の黙示録」か。)
一番のポイントとなるのが主人公ロイがロケットの乗組員を殺してしまうシーン。
ロイは任務に取り憑かれた父親クリフォードと同じ道をたどります。(父親も乗組員たち全員を殺してしまっていた。)
「闇の奥」でもクルツとマーロウは同じく越えてはいけない一線を越えてしまいます。
ロイは"父親を探す"という任務を忠実に遂行しようとします。
常に冷静であり、自分の感情をも圧し殺し、宇宙飛行士として完璧であろうとします。
しかしロイは火星で父親に対する本当の感情に気付きます。(常に完璧であろうとする姿は劇中何度か映る心理テストのシーンで分かります。)
そこで起こったのが先に書いたロイがロケットの中で乗組員を殺してしまうシーン。
ロイの中にある父親への複雑な感情(家庭を省みなかった父親の姿と科学者として英雄視されている父親)と葛藤の末、乗組員を殺害してしまうという行動をあえてクリフォードと重ねたのが凄い。
父親クリフォードと再会したロイはここでも説得し、地球に戻るように諭します。(火星で何度も父親へ通信するが、自分の感情を出して父親へ話かけた途端に突如任務から外されてしまう。劇中では描かれていないし、説明されてもいなかったけどおそらくこの時初めてクリフォードから返信が来たのだろう。)
クリフォードは一度はロイと共に地球に帰ることを同意するものの、自ら死を選びます。
自分が死ぬことでロイを(任務と心からの)解放したように感じました。(語られてはいないが、ロイを自分と同じようにはしたくなかった!?つまり父親の贖罪?)
ラストでは冒頭で語られていた妻のイヴと再び関係を修復しようとしているロイの姿で終わります。
「オデッセイア」と同じように、自分の国(この場合は妻の元に)に帰る主人公ロイには帰る場所があり、そのことに気付いたロイは父親とは違う道を歩もうとしていた姿がとても印象的。(クリフォードには帰る場所は無く、宇宙の彼方へ消えていく。笑顔が全くないブラピの表情がラストでは柔らかくなっていたのにも注目。)
本作にはSF映画特有の壮大な景色がほとんど映らず、セリフもほとんど無し。
ブラピのアップのシーンがかなり多いのが特徴。
外見的には感情を抑え完璧な宇宙飛行士でいようと振る舞いながらも自分の中にある感情に揺れ動いている様子を顔の表情だけで上手く表現してみせたブラピの演技は大絶賛されました。
そんな本作は現代版の英雄彈を描いた深い作品なのでした。
ちなみに月に作られた基地に牛丼の吉野家の看板があったのを発見!
吉野家"月面店"かぁ~(笑)